市民後見人の役割と注意点:明確なガイドライン

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あなたが大切な家族のため、または専門的な立場で成年後見人を務めることになったとしましょう。
しかし、市民後見人の役割とは一体何でしょう?

身上の保護、財産管理といった業務はもちろん、医療判断や介護、看護といった範囲を超える行為を避ける必要があるのは理解していますか?
これらの規定や制約が難しく感じるかもしれませんが、安心してください。

本記事では、市民後見人の業務と限界を、明快に理解できるように解説します。
また、トラブルを避け、被後見人の最善の利益を保護するための具体的なアドバイスもご紹介します。
いっしょに成年後見人としての責任と役割を探求しましょう。

目次

成年後見制度の概要

市民後見人を説明する前に成年後見制度について説明します。
成年後見制度で支援するのが成年後見人です。成年後見人のひとつの形態が市民後見人です。

成年後見制度は、判断能力が欠けるか不十分な成年者を保護し、その権利を守るための法的制度です。
この制度は、認知症や精神障害などの理由で自己決定が困難な人々を支援することを目的としています。

成年後見制度を実施するには、家庭裁判所に申立てをする必要があります。
申立ては、本人自身、配偶者、親族、検察官、市町村の長によっておこなわれます。
家庭裁判所は、医師の診断書や関係者からの意見を基に、後見開始の決定を下します。

被後見人の障害の程度により後見人、保佐人、補助人のうちいずれかが家庭裁判所により任命されます。
後見人、保佐人、補助人は、法律専門家である必要はありません。
親族や信頼のおける人が任命されることがありますが、専門的な知識やスキルが必要な場合には、弁護士や司法書士など専門の後見人が任命されることがあります。

成年後見人とは

成年後見人とは何かを理解するために、まず民法に示されている定義を明確にしましょう。

「後見人」については民法上はっきりした定義はありませんが、民法第4条・7条・8条に以下のとおり規定されています。

(成年)

第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。

(後見開始の審判)

第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

(成年被後見人及び成年後見人)

第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。

これらを統合して理解すると、成年後見人とは「18歳以上で、精神的な障害により事理を理解する能力が欠けている成年被後見人のサポートを行う者」となります。

成年被後見人の3要件

  • 18歳以上である者
  • 精神的な障害があり、事理を理解する能力が欠けている者
  • 後見開始の審査を受けている者
補足知識【成年後見制度の基本理念】
  • 自己決定権の尊重
    一般に自己決定の根拠がないと認められません。
  • 残存能力の活用
    能力が残っている範囲で、自己の意志に基づく生活をおこなうように誘導する。
  • ノーマライゼーション
    可能な限り一般的な生活環境や社会生活を享受できるようにする。

市民後見人と

市民後見人とは弁護士や司法書士などの資格を持たず、親族でもない一般市民が成年後見人となることを指します。

市区町村等が実施する研修を受講するなどして、必要な知識を得た一般市民の中から、家庭裁判所が成年後見人等として選任します。

市民後見人は一般市民が成年後見制度をつうじて、高齢者や障害者などの判断能力が不十分な人々の生活全般についてサポートを提供する役割を担っています。

主な任務は、後見人が必要な人々の財産管理や身上保護をおこなうことで、その生活の質を向上させることにあります。

市民後見人になるには

市区町村などが実施している市民後見人養成講座を受講して、知識・技術、社会規範、倫理性を学びます。

講座を修了すると市民後見人バンクに登録することができます。
登録後、家庭裁判所からの選任を受けて、市民後見人としての活動が始まります。

もし地域社会の福祉向上に貢献したい、他人のために何か役に立ちたいと言う願望があるなら、市民後見人は良い選択肢になります。

また、後見支援員として活動する道もあります。
家庭裁判所から直接任命される必要はなく、自身が登録している組織が法人後見人であれば、その法人の後見支援員として活動を始めることができます。

具体的には、地域の社会福祉協議会が法人後見人であることが多く、ここで提供される市民後見人養成講座を受講し、後見支援員としての活動を開始します。
更に経験を積み、責任ある業務を担当したいと思うなら、市民後見人として活動することも考えられます。

市民後見人養成講座

市民後見人養成講座では、民法などの法令に関する基本的な知識を始めとし、判断能力が不十分な人々の生活支援や財産管理に必要な具体的な知識と技術を習得します。

さらに、人権尊重の視点や、関係者とのコミュニケーションスキルも教えられます。これらの知識とスキルは、市民後見人として高齢者や障害者を適切に支援するために不可欠なものです。

厚生労働省で市民後見人養成講座のカリキュラム例を提供しています。
基礎研修と実践研修に分かれており、合計50時間の講義で構成されています。

基礎研修では市民後見制度の基礎知識から始まって、関係法規、介護保険制度など、実践研修では現場での体験や書類作成の実務、レポート作成など、市民後見人や後見支援員にとして必要とされる具体的なスキルを習得します。

市民後見人の業務

就任直後の業務

  • 被後見人の情報収集
  • 被後見人との面会
  • 活動計画の作成と説明
  • 金融機関に後見人就任届出を提出
  • 家庭裁判所に財産目録と年間収支表を提出

被後見人の情報収集

市民後見人に就任したら、真っ先にすべきことは被後見人を知ることです。
そのために家庭裁判所から提出された申立書や医師の意見書などの情報を収集します。

被後見人の生活状況や心身の健康状態、財産状況などを把握し、後見人として適切な支援を提供するためには必須な事項です。

ただし、これらの文書には被後見人のプライバシーに関する情報が含まれていることが多いため、取り扱いには十分注意する必要があります。

具体的な手続きやルールについては、任命した家庭裁判所や後見支援機関に問い合わせて確認することをおすすめします。

被後見人との面会

被後見人と直接面会し、自身が後見人であることを明確に伝えるとともに、被後見人の現在の生活状況やニーズを把握します。

特に最初の面会はとても重要なものであり、慎重な準備と適切な対応が求められます。以下に、その際に注意すべきポイントを挙げてみます。

  • 尊重と配慮
    被後見人の尊厳と意志を尊重し、配慮ある接し方を心掛けて下さい。彼らが何を望み、何を必要としているかを理解することが大切です。
  • 明瞭なコミュニケーション
    後見人の役割や責任、どのような支援が可能で、どのような支援が難しいのかを被後見人に明確に伝えることが重要です。
  • 感情や状況の観察
    被後見人の感情や状況を観察し、適切な対応を考えてください。
    例えば、認知症等の症状がある場合、情報を理解しやすいような説明の仕方を工夫する等の配慮が求められます。
  • プライバシーの尊重
    被後見人のプライバシーを尊重し、必要な情報だけを適切に収集することが重要です。
  • 親族とのコミュニケーション:被後見人の家族や親族とも良好なコミュニケーションを維持することが求められます。彼らも後見人の活動に対する理解や協力が必要となる場合があります。

活動計画の作成と説明

活動計画を作成して被後見人やその家族に事前に説明することは、トラブルを回避するために非常な業務になります。必ずおこなうようにして下さい。

活動計画の一般的な項目を例示します。

  1. 被後見人の現状の理解
    • 被後見人の身体的・精神的健康状況
    • 財産の状況(収入、負債、保有資産等)
    • 家族や他の関係者との関係性
    • 生活習慣、趣味や興味等
  2. 後見活動の目標
    • 被後見人の生活の安定
    • 被後見人の財産の適切な管理と利用
    • 快適で充実した生活を支援するための活動
  3. 具体的な活動計画
    • 定期的な面会とコミュニケーションの確保
    • 医療・福祉サービスの手配や管理
    • 財産管理(資産の適切な投資、必要な支出の決定等)
    • 法的な手続きのサポート(例えば、契約の締結、社会保障給付の申請等)
  4. 活動の評価と改善
    • 目標達成状況の定期的な評価
    • 必要に応じて活動計画の改善
    • 家庭裁判所への報告
  • 被後見人の現状の理解

家庭裁判所に提出された申立書には申立の動機や理由が記載されています。また添付書類として戸籍・住民票があります。
その他、診断書・財産に関する資料・収支に関する資料がありますから熟読しましょう。

不明な点は被後見人や家族に口頭で聞くか、書類の提出を求めましょう。

  1. 後見活動の目標

目標を定めるために最も重視すべき点は被後見人の意思を尊重することです。
後見制度を実りのあるものにするためには最も重要なことです。

  1. 具体的な活動計画

貢献活動の目標を踏まえて家庭裁判所指示も考慮したうえで、後見人が管理する範囲を決定していきます。具体的には次の事項があります。

  • 面会頻度の決定
  • 後見人が管理する財産の決定
  • 生活費の決定
  • 1年以内に予想される特別経費の決定(旅行、冠婚葬祭)
  • 1年以内に必要な手続き(介護施設へ入所、定期預金の更新、確定申告など)の聞き取り

慣れないうちは些細なことでも家庭裁判所に相談することをおすすめします。

  1. 活動の評価と改善

1年が経過したら後見活動の評価をおこないます。
特に被後見人は後見人の活動をどう捉えているかが重要になります。

被後見人が不満があるようであれば、その原因を突き止め改善を図り、次年度の計画につなげます。

また家庭裁判所には財産管理報告書、生活状況報告書を提出します。

金融機関に後見人就任届出を提出

被後見人の財産状況を把握したら、関係する金融機関に後見人就任届を提出して、次の業務をおこないます。

  • 通帳名義の変更
  • 新キャッシュカードの作成
  • 1年分の取引履歴を取得
  • 他店に被後見人名義口座がないか確認
  • 出資金・ローンがないか確認

なお後見人就任届には次の添付書類が必要になります。

  • 登記事項証明書または審判書謄本+確定証明書
  • 被後見人の通帳・証書・キャッシュカード・届出印
  • 後見人の印鑑証明書、実印
  • 後見人の新しい銀行届出印(実印が無難)
  • 後見人の身分証明書(免許証・マイナンバーカード)

家庭裁判所に財産目録と年間収支表を提出

財産状況と1年間の収支の状況が把握できたら家庭裁判所に財産目録と年間収支表を提出します。
これらの書類には、後見人が被後見人の財産をどのように管理し、生活費等をどのように使うのかを明記します。

就任中の業務

就任中におこなった業務は後見日誌(記録簿)として文書化しておきます。
これは家庭裁判所に提出する事務報告書の参考資料になるだけではなく、報酬額決定に影響を与える重要な材料の一部となります。

身上保護(身上監護)

身上保護は身上監護とも言います。
身上保護とは被後見人が法律行為をおこなうために意思決定を迫られた場合に後見人が代行または支援をすることです。
日常的な介護や看護などは身上保護に含まれません。
以下に具体的な事例を挙げます。

介護契約
住宅の維持・管理
家賃の支払い
転居
施設入所契約
入院の手続きなどの契約行為
不動産の処分など

具体的な内容は家庭裁判所の指導を受けながら活動計画書に明示し、被後見人やその家族に事前に知らせておきます。

日々の買い物を代行することは身上保護に含まれますが、被後見人の自立を尊重しつつ、必要に応じて適切な支援を行うべきといった観点から、後見人はおこなわないことが多いです。
このように境界線があいまいな行為についても、事前に活動計画書に明示しておけば、トラブル防止になります。

財産管理

被後見人の生活資金を確保し、経済的な利益を守るために、被後見人が所有する財産の適切な管理と保全をおこないます。
具体的には、以下のような活動が該当します。

  • 書類など保管
    後見人が預かる通帳・権利証・印鑑などを保管
  • 資産・負債の確認
    被後見人の財産(不動産、預金、株式など)と負債(借金・税金の滞納など)を詳細に調査し、その総額と構成を把握し、財産目録にまとめます。
  • 収入・支出の管理
    被後見人の収入(年金、給与、不動産からの収入など)と支出(生活費、医療費など)を管理します。
    生活費や不定期な経費(旅行・冠婚葬祭)の額の決定、水道光熱費などの共通費のうち被後見人の負担分の決定は同居家族の資産額や所得額も考慮して決定する必要があります。
  • 資産の処分
    被後見人の生活費の不足が懸念される場合、家庭裁判所と協議のうえ、不動産や株式などの資産を処分します。
  • 契約管理
    被後見人の代わりに契約を結んだり、既存の契約を更新や解約をします。

このように、後見人の財産管理の活動は非常に広範で、被後見人の利益を最大化し、財産を適切に保全するための様々な活動を含みます。

後見人が避けるべき行為

成年後見制度は、基本的に被後見人の財産管理と日常生活の援助を目的としています。後見人が適切にその目的を果たすためには次の行為は避けるべきです。

  • 医療判断
  • 食事用意・洗濯・掃除
  • 現実的な行為(介護・看護)
  • 身元保証・連帯保証

いずれの場合でも、自己の判断だけで行動せず、相談することが重要です。
特に、家庭裁判所との相談は大前提となります。

医療判断

医療判断は被後見人自身の人格権、つまり身体の自由や健康の保持などに直接関わる問題であり、後見人が代行する範囲を超えるものとされています。

被後見人の人格権については本人自身が行使することが基本であり、原則として後見人がこれを代行することは許されません。

ただし、実際の状況に応じて、後見人が医療関連の意思決定を支援することはあり得ます。

現実的には、被後見人が医療判断できない場合は、担当医師の支援を受けながら家族や親族が判断をおこなっているのが一般的です。

現実的な行為(介護・看護)

介護や看護は専門的な知識や技術を必要とし、一般的には後見人がおこなうものではありません。

これは、後見人が対処するべき業務の範囲を超えており、また、不適切な介護や看護が被後見人の健康や安全を損なう可能性があるからです。

しかし、緊急の状況では後見人が即座に対応することが求められるかもしれません。
例えば、被後見人が急に体調を崩した場合、後見人は医療機関に連絡を取ったり、適切な医療を受けられるよう手配したりすることが必要になるかもしれません。
このような場合には、後見人が緊急の対応を行うことが望ましいです。

身元保証・連帯保証

身元保証・連帯保証は後見人と被後見人の間で利益相反の可能性があることや、被後見人の財産を保護する役割からみて、適切ではありません。

なお具体的な事案が発生した場合は家庭裁判所の判断を求めて下さい。

借金の返済

後見人は被後見人の財産を管理する立場にありますが、被後見人が借金を返済できない場合、後見人自身がその借金を返済する責任はありません。

不適切な投資

後見人は被後見人の財産を管理する立場にありますが、リスクの高い投資や専門的な知識を必要とする投資などは避けるべきです。

まとめ

成年後見人として重要なのは、適切な財産管理と日常生活のサポートです。

しかし、医療決定や介護・看護、身元・連帯保証、借金の返済、不適切な投資など、被後見人の利益と衝突する可能性のある行動は控えるべきです。

例えば、専門的な医療決定は被後見人自身または専門家に任せるべきで、後見人が代行するのは不適切です。
また、後見人が借金の返済やリスクの高い投資をする責任もありません。すべての行動については家庭裁判所との相談が必須です。
後見人は常に被後見人の最善の利益を尊重するべきです。

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