定年退職前後は必ずしておかなければいけない手続きがあります。
具体的には「年金」「税金」「健康保険」「雇用保険」の手続きです。
そのうち「健康保険」の手続きについて取り上げます。
健康保険」についてはすべて会社に任せていて、「全くわからない」といった人に、特に参考になります。
下記「定年退職後の働き方」の選択肢から加入手続きをとっていけばいいです。
「健康保険」は退職後の働き方と密接に関係しています。
そのため定年時の6ヶ月前からどのようなどのような働き方をするか決めておいたほうがいいでしょう。特に他社に再就職する場合は早いことに越したことはありません。
働き方が決まればそれにあわせて「健康保険」に加入していきます。
【定年退職後の働き方】
- 現在の会社に継続して勤める。
- 別の会社に再就職する。
- 自営業をする、または無職になる。
現在の会社に継続して勤める。
退職の手続きを取ったとしても退職前と雇用・労働条件が変わらなければ、健康保険については何もする必要はありません。
現在の会社に継続して勤めていても、雇用・労働条件が大きく変わった場合、健康保険料が変わります。勤務時間が短くなったりして給与が下がれば、健康保険料も減額します。
健康保険料は次の式で計算され、報酬や賞与額によって変わります。
つまり雇用・労働条件によって収入が変われば健康保険料は変わります。
健康保険料 = 標準報酬月額 ( 標準賞与額 ) × 健康保険料率
特に下記の「健康保険法第3条第1項の社会保険適用基準」をすべて満たさないと「健康保険」に加入することができません。注意しましょう。適用基準を満たさない場合は、国民健康保険などの加入手続きが必要になります。
【健康保険法第3条第1項の社会保険適用基準】
- 1週間または1ヶ月間の労働日数が通常労働者の労働時間の3/4以上であること
- 1週間の労働時間が20時間以上であること
- 当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
- 報酬月額が88,000円以上であること。
- 高校生・大学生等でないこと
別の会社に再就職する。
以前の会社の保険証は退職日に返却して下さい。被扶養者の配偶者や子の保険証も忘れずに
再就職先には入社前に手続きを取りましょう。すぐに必要な場合は「健康保険資格証明交付申請書」を提出して下さい。
別の会社に再就職すると、当然、雇用・労働条件が変わってきますので、健康保険料が変わります。
「健康保険法第3条第1項の社会保険適用基準」を満たしているか確認しておきましょう。
自営業をする、または無職になる。
退職して会社に務めず、自営または無職の場合は以下の3つから選択できます。
【退職後に自営または無職の場合の健康保険】
- 退職前の会社の「健康保険の任意継続被保険者制度」加入
- 「国民健康保険」に加入
- 家族の「健康保険」に加入(家族の被扶養者になる)
退職前の会社の「健康保険の任意継続被保険者制度」加入
「任意継続被保険者制度」とは、退職した後も、引き続いて最大2年間、退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度です。
加入要件は継続して2か月以上被保険者であったことです。定年退職者は特に問題はない要件でしょう。また被保険者でなくなった日から20日以内に申請をすることです。
被保険者でなくなった日つまり退職日から手続きをすると保険証のない期間が発生するため、実際は退職前から会社の社会保険担当部局から手続きの案内があるのが一般的です。
重要な点は健康保険料が会社と折半していたものが全額自己負担になることです。退職前の倍額になります。
「国民健康保険」に加入
「国民健康保険」とは、会社の健康保険の被保険者になれない自営業者や無職の人などが加入する保険です。
被保険者でなくなった日から20日以内に申請をすることになっています。特に案内はありませんので早めに手続きは済ませておきましょう。
家族の「健康保険」に加入(家族の被扶養者になる)
家族の「健康保険」に加入しても保険料は増えませんので、一番安価です。
ただし被扶養者になれる条件があります。
・75歳未満であること(75歳以上は後期高齢者医療制度の被保険者になります)
・60歳以上は年収180万円未満、60歳未満は年収130万円未満
どれに加入すればいいのか?
年収要件満たしていれば、家族の「健康保険」に被扶養者として加入するのが一番安価です。
家族の「健康保険」に加入できなければ「健康保険の任意継続被保険者制度」か「国民健康保険」のどちらかに加入することになります。
「任意継続被保険者制度」の健康保険料
計算式は次のとおりです。
健康保険料 = 標準報酬月額 ( 標準賞与額 ) × 健康保険料率
任意継続加入中の保険料は、「退職時の標準報酬月額」と「組合の標準報酬月額の平均額(協会けんぽ令和2年度は300千円)」のいずれか低い月額に保険料率を乗じて算出され、この保険料が任意継続の期間中適用されます。
1年目が無職だからといって2年目の保険料は減額になりません。
そのため1年目は「任意継続被保険者制度」で2年目は「国民健康保険」にするケースも考えられます。
「国民健康保険」の保険料
「国民健康保険」の保険料は自治体で異なります。世田谷区の令和2年度の保険料を例にすると
医療分加 入者全員 | 後期支援分 加入者全員 | 介護保険分 40〜64歳の加入者 | 合計 | ||
①所得割 | 前年総所得金額等 ー基礎控除額(33万円) | 7.14% | 2.29% | 2.05% | |
②均等割 | 国保加入者当り | 39,900円 | 12,900円 | 15,600円 | |
③平等割 | 国保加入世帯当り | 0円 | 0円 | 0円 | |
合計 | A | ||||
限度額 | ①+②+③に対して | 630,000円 | 190,000円 | 170,000円 |
上表の「A」に入る値が「国民健康保険」の保険料になります。
計算方法はどの自治体もほぼ同じですが、料率・単価・限度額が異なります。
【注意点】
無職の人など前年中の所得が一定基準以下の場合、「国民健康保険保険料軽減措置」の対象になるかもしれません。自治体に確認して下さい。
まとめ
定年退職後は仕事が変わりますので、「健康保険」もそれに合わせて変わります。
6ヶ月前をめどに次にどんな働き方をするのか決めておきましょう。
現在の会社に勤める場合は、給与が変われば健康保険料も変わります。
別会社に再就職する場合は、当然新たな健康保険に加入することになりますので、早めに手続きを取りましょう。
会社に勤める場合は「健康保険法第3条第1項の社会保険適用基準」を満たしているか確認して下さい。
自営業をする、または無職になる場合は、「健康保険の任意継続被保険者制度」「国民健康保険」「家族の健康保険」の3つうちから選択することになります。1年目で有利(保険料が安い)でも、2年目で変わってくる可能性もありますので、そのままにしないで2年目になる前に再度調べて下さい。