現在、都内に住んでいます。
私の故郷には先祖代々の墓があります。父から長男として「墓を管理してほしい」と依頼されました。
田舎には高齢の父母2人が住んでいます。
田舎に戻る予定はなく、高齢の両親と話し合いの結果、墓じまいをすることになりました。
とはいえ、どのような手続きを進めるべきかは初めての経験であり、迷っています。「墓じまいの供養の方法や手順はどうすればいいのか?」といった疑問に対する回答を試みます。
私が提唱するのは、「散骨」と「永代供養」を組み合わせた供養方法です。
この記事を読むことで、その提案の理由についてより深く理解していただけると思います。これにより、墓に関する新たな視点を得て、不要な悩みが解消されるでしょう。
以前、私は市役所で環境保全の仕事に携わり、市営墓地の管理も行っていました。この経験を活かして、「墓地、埋葬等に関する法律」について再度確認し、その知識を共有します。
「墓じまい」とは
墓じまいは墓石の解体や撤去をおこない、その土地を清掃し、最終的に墓地を管理者に返却する行為を指します。
「墓じまい」をおこなう背景
- 高齢になり墓の管理が困難になった。
- 墓が遠方にあるので管理できなくなった。
- 子どもたちに、墓の維持管理に関する負担ををかけたくない。
- 墓を維持管理してくれる子どもがいない。
以上の背景で自分で墓地を管理できなくなったが、色々な事情によって代わって管理できなくなった場合に墓じまいをせざる得なくなります。
「墓じまい」の手順
概ね以下の手順で墓じまいを実施していきます。
墓内にある遺骨の状況を調査
【調査項目】
- 骨壷の名義
事前に祖先の名前を確認しておき、誰の遺骨かを確認する。
骨壺に名前が書いてない場合もあります。
祖先の名前は墓石、戸籍、家系図などから確認します。 - 数量・大きさ
- 経過年数
骨壷に記入されてますし、戸籍でも分かります。 - 破損・汚損などの状態
- 写真撮影
墓内の遺骨は湿気を含み溶解していたり、カビが生えていたりすることがあります。
そのため、新しい骨壺に入れ替えたり、適切な手入れが必要になることがあります。
この調査は、専門の業者に依頼するのも一つの選択肢です。
撤去費用の見積もりを徴収
1㎡あたり10万円程度が目安かと思います。
墓石の立地、敷地の大きさ、骨壷の数、事前調査の依頼などにより、見積もり額は変動します。
親族との協議および合意
最初に、親族の間で墓の保護がどれほど重要かということを共有することが大切です。
その上で今後の管理や処理の責任者(祭祀承継者)を親族と一緒に決定します。
続いて管理または処理方法(供養方法)を決定する。
場合によっては書面押印しておくことも必要です。
トラブルを防ぐためには、全ての親族が同意を得られていることが重要です。人により、墓に対する感情が異なるため、親族には自分の思いを伝えることが大切です。
寺や霊園の墓管理者との協議および合意
寺の経済状況も関係するので、十分に話し合うことが必要です。
墓があったお寺で永代供養をするなど、提示された金額に応じるなど、一定の妥協が必要な場合があります。
供養方法を決定
「墓じまい」には以下の供養方法が考えられます。
- 散骨
骨をパウダー状にして海や山林地に散布する方法 - 永代供養
遺族の代わって寺院や霊園が供養や管理を代行する方法 - 自宅供養
遺骨を自宅に安置して、自身で供養する方法
樹木葬(墓石を作らず遺骨を土に埋め、その上に樹木を植える方法)や納骨堂に納める方法も永代供養の一種になります。
永代供養は永久に管理してもらえるわけではなく、33回忌が期限になっていることが多いです。
書類手続き
墓地に関する法的な手続きは「墓地、埋葬等に関する法律」に基づき市区町村役場が担当しています。
- 散骨や自宅供養の場合は「新しいお墓」はありませんので改葬手続き申請は必要ありません。
- 新しいお墓や納骨堂に移す場合は、市役所に「改葬許可申請書」を提出し、「改葬許可書」を受け取ります。
- 埋葬証明書または納骨証明書を現在の墓管理者から発行してもらう。(改葬許可申請書に添付が必要な場合があります。)
- 新しいお墓や納骨堂に移る場合は、「受入証明書」を引越先の墓管理者から発行してもらいます。
- 墓地を管轄する市役所へ出向き「改葬許可申請」の手続きをおこないます。
墓撤去業者(墓石屋)の決定
相場は30万円以下(10万円台もあり)と言われますが、実際には、相場はないと思ったほうがよいです。
主な遺骨の供養方法
散骨
遺骨を2mm以下のパウダー状にして散骨します。
これは散骨業者の自主規制で法律等で規定されているものではありません。
散骨は法律「墓地・埋葬に関する法律」には規定がなくグレーな面があります。現実的には粉骨されていれば問題はないとされています。
ただし、一部の自治体では届け出が必要な場合があります。
寺から遺骨を引き取って散骨する場合は書類上の許可(「改葬許可証」)などは原則必要ありません。「改葬許可証」が必要なのはお墓から別のお墓への移動の際だけです。
もし必要と言われた場合は、「改葬手続申請書」の改葬の理由欄に「自宅にて一時保管のため」と記入する。自治体によっては法律的にグレーなので「散骨のため」と書くと許可してもらえない場合もあります。
国は、「散骨」について、「墓地、埋葬等に関する法律においてこれを禁止する規定はない。
この問題については、国民の意識、宗教的感情の動向等を注意深く見守っていく必要がある。」との見解を示しています。
海洋散骨
自分でできるが、海水浴場や漁港の近くは避ける。現実的には業者に委託するのが無難です。
業者に委託する場合は10万円程度、船をチャーターして同席する場合は30万円程度が必要になります。
樹木葬
民家の近くは避ける。他人の所有地ではおこなうべきではありません。
永代供養墓
寺院や霊が遺骨を供養・管理してくれるお墓で、 後の世代に金銭的、肉体的、精神的な負担がかからない。一般的なお墓よりも価格が安い。
最初に契約すれば、契約時の金額で一切の管理をしてもらえるため、永代供養は増加しています。
古い骨の処分
骨をむやみに捨てると、刑法や墓地、埋葬等に関する法律違反になります。
安易な行為は慎みましょう。
古い骨の処分は現在できる方法は散骨です。散骨については業者の自主規制によっていましたが、2021年に厚生労働省から「散骨に関するガイドライン」が発表されました。
「散骨に関するガイドライン」の規定に基づき処分すれば、違法であると言われることはないでしょう。
結び
墓の中には名前もわからない骨壺があるかもしれません。自分の記憶にない故人の骨壺がある場合も想定されます。
そのような骨は「散骨」としてはどうでしょうか?
一方で、生前一緒に生活していた。幼少の時に可愛がってもらった等、記憶がはっきりしている故人の骨は「永代供養」してはどうでしょうか?
そのうえで親族の意見も参考にして下さい。また自分の子が分別のある年であれば、意見を聞くことも重要です。
その場合の具体的な手順は下記のとおりになります。
- 骨壷の数を確認
- 古い骨壷の整理(多数の骨壷の一壷化)
- 記憶にない個人の骨の「散骨」
- 記憶がはっきりしている故人の骨の「永代供養」
雑感
戦後の個人主義に基づく価値観の変化により、核家族化、大都市への人口集中、地方の過疎化、人口減少、少子高齢化、日本人のライフスタイルや価値観の変化、により墓のあり方が大きく変わってきています。
一方、民法第897条の中で、お墓の所有権は、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する」と定められています。
「家」のあり方が昔とは大きく変わった現代の社会において、特定の継承者が家のお墓を管理することが困難になってきました。
その結果、地方では、誰もお参りに来る人がいなくなり無縁墓が相当増えています。
また、法律では想定していなかった散骨や共同墓といった埋葬方法も増えてきている。
もはや墓の問題は、空き家・耕作放棄地と並んで社会全体の問題化しています。
そんな中、社会が悪い、行政は何もしてくれないと言っても何も解決しません。
自分の宗教観、心情を改めて見直して見るべきです。その上で親族や関係者としっかりと話し合ってみてはどうでしょうか?