今回は相続の遺言と遺留分です。
基礎編の正誤問題と応用編の穴埋め問題での出題です。基本を理解して取りこぼしのないようにしましょう。
遺言
民法第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
遺言の方法
2020年より法務局保管制度が開始されました。
これまでの自筆証書遺言は名前が示すとおり、すべて自分で手書きしなければいけませんでした。
高齢者の中には手書きが困難である人がおられます。これが制度のネックになっていました。それを解決する制度として法務局保管制度があります。
作成方法 | 証 人 | 公証人 | 保管 | 保管 場所 | 家裁の 検認 |
自筆証書遺言 (通常) | 本人が全文、日付、氏名を自筆、押印 | 不要 | 不要 | 自宅等 | 必要 |
自筆証書遺言 (法務局保管制度) | 本人が全文、日付、氏名を自筆、押印 財産目録はPC、通帳コピーに代えれる | 不要 | 不要 | 法務局 | 不要 (2021.1) (2019.9応用) |
公正証書遺言 (2019.1) | 公証人が本人の口述を筆記 | 2人以上 (2019.9応用) | 1人 | 原本:公証役場 正本:本人 | 不要 |
秘密証書遺言 (2019.1) | 本人が署名して押印、封印 PCで作成可 | 2人以上 | 1人 | 自宅等 | 必要 |
原本:大元の遺言書、正本:原本を元にして原本と同一の効果があるとした遺言書
公正証書遺言の大元の文書は公証役場いある原本なので、正本を破棄しても遺言を撤回したことにはなりません。(2019.1)
2人の証人
証人とは公証役場で遺言書を作成する場合の立会人のことです。
【証人になれない人】
- 未成年者
- 成年被後見人
- 成年被保佐人
- 推定相続人
- 受贈者
- 推定相続人、受贈者の配偶者
- 推定相続人、受贈者の直系血族
- 公証人の配偶者
- 公証人の4親等以内の親族
- 公証役場職員
1~4番が行為能力が不足する者、5~10番は利害関係者であることから除かれます。(2019.1)
で、兄弟姉妹は推定相続人でない場合は、どれにも該当しませんので証人になれます。(2020.9)
検認
検認とは家庭裁判所が法律上定めた条件を満たした遺言書かどうか確認する手続き
遺言書の内容が正しいかどうかを判断するものではありません。
自筆証書遺言(法務局保管制度)
【自筆証書遺言の問題点】
- 紛失する
- 自筆が困難な人は使えない
自筆証書遺言には上記の問題があり、改善が望まれていました。
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により、2020年7月10日から自筆証書遺言の保管制度が創設され、法務局での保管が可能になりました。(2019.9応用)
遺言者が法務局に出向く手間と遺言書のレイアウトが細かく定められて、新たな面倒が生じましたが、課税裁判所の検認や公証人が不必要になり、かなり使いやすい制度になりました。(2021.1)
自筆証書遺言(法務局保管制度)作成要件
遺言書を保管できる法務局は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地の、いずれかを管轄する法務局(2021.1)
全文、日付、氏名は自書押印(財産目録のPC作成、まん通帳コピー、登記事項証明書の利用可)(2019.9応用)
財産目録の各頁に署名押印、本文で用いる印鑑とは異なる印鑑を用いても構いません。
財産目録は遺言者以外の人が作成することもできます。
用紙サイズはA4で余白は上5mm、下10mm、左20mm、右mm、片面記入でページ番号記載
遺言者本人が無封で法務省令で定める様式で作成(2021.1)
手続き
遺言書を保管できる法務局は、遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地の、いずれかを管轄する法務局から申請、2通め以降は同じ法務局で申請のこと「
保管申請は住民票の写し、身分証明書を持参して遺言者が直接法務局に出向くこと。
手数料は3,900円/通を支払って、保管証を受け取る。(2021.5応用)
遺言の注意点
遺言作成後、遺言対象の財産の一部を遺言者の意志で減額させた場合は、遺言と現実が異なる部分は遺言を撤回したとみなす。
複数の遺言書がある場合は作成日の新しい遺言書が有効になる。(2019.1)
複数の遺言書で内容が抵触する場合は、新しい遺言書の内容が優先される。(2018.1)
自筆証書遺言を変更する場合、変更箇所を指示し、変更した旨を付記して、署名押印しなければならない。(2020.9)
遺言執行者とは相続財産目録の作成、各金融機関での預金解約手続き、法務局での名義変更登記手続きなど、遺言の内容を実現するために必要な一切の手続きをおこなう相続人の代理人で、未成年や破産者以外はだれでも遺言などで選任できます。(2018.1)
遺留分
遺留分とは、相続人の最低限度の生活を確保するための相続財産の分割割合のこと
相続開始前に相続放棄はできませんが、遺留分の放棄は家庭裁判所の許可があれば、相続前にできます。(2018.1)(2019.9応用)
遺留分権利者が遺留分を放棄しても、他の遺留分権利者の遺留分の割合が増加することはない。
遺留分の割合
【遺留分の割合】
- 基本割合
-
遺留分算定基礎財産×1/2
- 直系尊属だけの相続の場合
-
遺留分算定基礎財産×1/3
兄弟姉妹に遺留分の権利はない
【遺留分算定基礎財産】
遺留分算定基礎財産
=相続財産
+相続人に対する特別受益額(10年以内)
+相続人以外に以外に対する」生前贈与の額(1年以内)
ー相続債務
【特別受益】
一部の相続人だけが特別に被相続人から生前贈与、遺贈、死因贈与で受け取った利益のこと。
ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦の遺贈又は贈与は、特別受益に該当しません。
生活が貧窮することを防止するためです。
相続税法の「贈与税の配偶者控除」と整合性を取ったものです。
遺留分侵害額請求
遺言や生前贈与により遺留分を侵害された法定相続人が、受遺者、受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利
侵害されていることを知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に請求しないと請求権は消滅する。
遺留分の特例
業種によって異なる資本・従業員要件を満たす、3年以上継続して事業を行っている非上場の中小企業について、代表者の死亡等により経営承継が事業活動の継続に影響を及ぼすおそれがあるため、遺留分に関し民法の特例を「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営継承円滑化法」により定めたもの。(2017.1)
除外合意と固定合意がある。
【除外合意】
生前に贈与された自社株式を遺留分算定基礎財産から除外する方法
【固定合意】
遺留分算定基礎財産に算入するが、その価額を贈与時の評価額に固定する方法
後継者以外の推定相続人が旧代表者から贈与された自社株式や、後継者が旧代表者から贈与された自社株式以外の財産について、遺留分算定基礎財産価額に算入しないという、除外合意をすることは可能だが、固定合意は不可。
【手続き】
推定相続人全員の書面合意(公正証書である必要はない)(2019.9)(2017.1)
↓
経済産業大臣へ確認申請
↓
経済産業大臣の確認(合意から1ヶ月以内)
↓
家庭裁判所へ申立
↓
家庭裁判所の許可(確認から1ヶ月以内)
【適用要件】
後継者が合意時点において会社の代表者であること。
後継者が現経営者からの贈与等により株式を取得したことにより、会社の議決権の過半数を保有していること。
後継者が先代経営者の推定相続人以外の場合も適用対象(2019.9)(2017.1)
相続預金の払戻し制度
遺言、遺留分とは論点が違いますが、制度改正なので載せておきます。
【制度制定以前の問題点】
遺産分割協議が整わないと、相続人単独では預金の引き出しができなかった。
【制度の内容】
遺産分割協議前でも葬儀費用などの支払が必要な場合、預金の引き出しができる制度
【単独で引き出せる額】
1金融機関当たり相続開始時の預金額×1/3×払い戻しを受ける相続人の法定相続分
上限150万円(2020.1)