リビングウイルって知っていますか?
延命治療をどうしてほしいのか、を文書化したものです。
リビングウイルは、意思がはっきりしているうちに終末医療についてどうしてほしいか明示しておくためのものです。
自分のためだけでなく、意思表示ができなくなったときに配偶者や家族が困惑することが少なくなります。
まず、リビングウイルの説明の前に前提知識として安楽死、尊厳死、延命治療について押さえておきます。
安楽死と尊厳死
安楽死と尊厳死については言葉が先行していて、その内容について理解不十分なため誤解が生じているような気がする。
一般に安楽死を分類すれば理解しやすくなります。
- 消極的安楽死
- 積極的安楽死
消極的安楽死とは尊厳死のことです。死期を人工的に延さないために延命治療をおこなわないで死に至ることです。
積極的安楽死とは死を早めるために、人工的に薬を投与して死に至ることです。
日本では安楽死・尊厳死のための法律は制定されていません。
積極的安楽死は刑法第199条や第202条に該当するおそれのある行為です。
刑法第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役にする。刑法202条(自殺関与及び同意殺人)
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
積極的安楽死の許容要件
どこまでが殺人罪や自殺関与及び同意殺人罪に当たるのかについては、積極的安楽死の許容要件が示された判例があります。
1991年に東海大学付属病院で起きた事件です。
末期がんの患者の家族のたび重なる求めに応じて、医師が薬を投与したことにより患者が死亡した事件です。
患者本人の意思表示がなかったため、医師が刑法第199条の殺人罪で起訴された。裁判では安楽死の違法性が問われて争われました。
加害者の医師に執行猶予付きの有罪が判決されました。
判決では、積極的安楽死の許容要件として下記の4要件が示された。
- 耐え難い肉体的苦痛があること
- 死期が迫っていること
- 苦痛を除去、緩和する代替手段がないこと
- 患者の明らかな意思表示があること
消極的安楽死と延命治療
消極的安楽死つまり尊厳死の目的は延命治療をしないことです。しかし苦痛を除去する緩和ケアは継続しておこないます。
では延命治療とはどんなことでしょうか?具体的には以下のような治療が該当します。
- 心臓マッサージの実施
- 人工呼吸器の設置
- 人工透析装置の設置
- 鼻チューブによる栄養補給
- 胃ろうによる栄養補給など
延命治療とは病気を治すことではなく、命を延ばすことを目的とした治療です。
患者が意思表示できなければ、延命治療をするかしないかは医師の助言に基づき家族が決定することになります。
鎌田實医師は著書「大・大往生」のなかで延命治療の定義を次のように言っておられます。
カマタ流の延命治療の定義は「本人が人生を楽しめていないにもかかわらず、生命体としての命を延ばす。それだけのためにする治療」
延命治療をする場合
- 延命治療することが患者本人の希望なのか不明なことがある。
- 患者本人が苦痛である。
- やめるタイミングが死ぬタイミングになることが多いため、なかなか止められない。
- 延命治療で入院期間が長期になり入院費用が増加する。
延命治療をしない場合
- 延命治療しないことが患者本人の希望なのか不明なことがある。
- 余命が短くなることが多い。
- 延命治療で病状が改善されることを考慮する必要がある。
- 緩和ケアが充実しているか確認する。
リビングウイル(LW)とは
人生の最終段階(終末期)を迎えたときなど、意思を決定・表明できない状態になったときに受ける医療の選択について、事前に意思表示しておく文書のことです。
特に終末期を迎えたときに当たっては、70歳までにリビングウイル(LW)を作成するのが良いと思います。
終末期医療をどうしてほしいかという意思を文書化するといってもなかなかやれないので、事前準備から始めていきます。
リビングウイル(LW)を作るに当たっての事前準備
延命治療をどうするかに当たって事前に、自分が大切にしているものは何かを再確認してみる。
- 家族、友人
- 仕事ができること
- 長生きすること
- 孤独にならないこと
- 自立していること
- できる限りの医療を受けること
- 肉体的な苦痛がないこと
- 精神的なストレスがないこと
- 自分が貧困にならないこと
- 家族が貧困にならないこと
粗々でもいいですから、大切にすることがまとまったら、まずは配偶者に話をしてみましょう。配偶者のいない方は家族に話をしてみましょう。
配偶者やその他の家族は本人が元気なうちは、改まって死について縁起でもないので話しにくいかもしれません。
自分の人生のことですから自分から切り出していきましょう。
話のなかで結論がでなくても結構です。配偶者、家族の意見も考慮したうえで、リビングウイル(LW)を作っていきます。
リビングウイルの様式例
正直、なにを書いていいのかわからないのが本当のところかと思います。
様式例を示しますので、それを参考に自分なりのリビングウイル(LW)を作って下さい。
また、一度作ったら終わりではありません。必要があれば何度でも見直しをしましょう。
毎年決まったときに見直すのもよいかもしれせん。
様式例
リビングウイル(終末期医療に関する事前指示書)
私は、病気や事故によって自分で意思決定や表明ができなくなり、回復が見込めない場合に備え、自分自身の終末期の医療・ケアについての私の意思を明らかにするため、下記のとおり指示を致します。
(延命措置)
私の傷病が不治の状態であり、既に死が迫っていると診断された場合に、延命措置をすることはしないで下さい。意識がなくなった場合はもちろん、はっきりと意思表示が出来ない場合も同様に扱って下さい。具体的には以下のとおりです。
- 鼻管の挿入をしないで下さい。
- 胃瘻の処置をしないで下さい。
- 人工呼吸器を取り付けないで下さい。
- 心臓マッサージ等の心 肺蘇生や AED の繰返し使用はしないで下さい。
- 昇圧薬の投与・輸血・人工透析・血漿交換の実施をしないで下さい。
(苦痛の緩和)
私の状態が苦しいようならば、緩和するための処置・治療をお願いします。下記の措置を取ることを承知します。
・苦痛を緩和するために、麻薬などを使用する措置
以上が私の終末期医療に関する事前の指示書です。
作成日 年 月 日
(本人)
住所
年月日 氏名(印)
年月日 氏名(印)
年月日 氏名(印)
(本指示書の証人)
住所
氏名(印)
連絡先電話番号
(私の意識がなくなった時の連絡先)
住所
氏名
連絡先電話番号
(私の意識がなくなった時の連絡先)
住所
氏名
連絡先電話番号
![](https://shihiroblog.com/app/wp-content/uploads/2020/05/847200_m-min.jpg)
まとめ
自分の死について意思がはっきりしていると明示しておくための文書(リビングウイル)を70歳までに作成しましょう。
安楽死には消極的安楽死と積極的安楽死があります。
尊厳死とは消極的安楽死のことです。
尊厳死(消極的安楽死)とは延命治療をしないことです。
延命治療をどうするかは自分が大切にしているものは何かを再確認し、配偶者や家族と話をすることが重要です。
それらに基づいて、リビングウイルを作成します。
リビングウイルを作成しておくのは自分のためであり、配偶者や家族のためでもあります。
【追伸】事前意思表示の問題点
リビングウイル(終末期医療に関する事前指示書)について色々な問題点があることに気がつきましたので追伸します。
- 気が変わる。(変節)
- 家族の意思表示
- 超高齢者の意思表示
気が変わる。(変節)
リビングウイルに延命治療は受けないと書いていても、いざ病気になるとまだ生きたいという気持ちが強くなって、延命治療を受けて長生きしたいに変わることはよくあることです。
変節することが心配な場合は、リビングウイルに最終確認をする明示する文言を入れておくのも一つの手です。
家族の意思表示
本人が病気で意思表示できない場合には、配偶者や親族の意思を確認されます。
本人の意思と配偶者や親族の意思が一致していれば問題はないのですが、本人が心変わりしていて意思が不一致の場合、どのように対応すればいいのでしょうか?
リビングウイルがある場合や病気になる前に本人の意思を聞いていた場合、家族はその内容を医師に伝えるでしょう。
しかしその意志は過去の意志です。変節していたらどうするのでしょうか?
いや病気によっては変節したかどうかもわからないケースも想像できます。
一つ間違うと怖い話ですが、スッキリした解決策は思いつきません。
超高齢者の意思表示
100歳以上の超高齢者になると病気でなくても、自分の意思を示すことが難しいことが考えられます。
また本人が面倒なのと家族に気を使わせるのが悪いと思う気持ちから、内容が理解できなくても相槌を打ち、同意したようにフリをすることがあります。
このように本人が意思表示できないときにどうするかは現実的には非常に曖昧で、現場の医師や家族に任されています。
極端かもしれませんが、「意思表示がわからないときは延命治療をする」と法律等で明文化しておけば延命治療を受けたくない場合はリビングウイルを作成するなりして家族に意思を伝えることを積極的におこなうのではないでしょうか。