【書評】『「老後の資産形成をゼッタイ始める!」と思える本』野尻哲史 著」

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「年金2000万円問題」で注目された金融庁金融審議会、市場ワーキンググループのメンバーの1人である著者が、

「退職後の生活のための資産形成をゼッタイ始める!」と決意していただくために書いた本です。

著者は女性向けに書いたと言っていますが、男性でも非常に参考になると思います。
また老後の生活のためには、20代・30代から資産形成を始めておく必要があり、そのような世代の方にも非常に参考になる本です。

目次

書籍の紹介

この本は次のような人がターゲットです。

  • 資産形成は預貯金しかしていない人
  • 老後の生活は年金があるから問題はないと思っている人
  • 資産形成をすべって夫に任せている人
  • 投資は株式の売買だと思っている人
  • 老後資金の必要性は感じているが、どうすればいいか悩んでいる人

ゼロ金利の時代において、健やかな老後の生活を送るためには、できるだけ早いうちから資産形成に取り組みことが重要です。

しかし、やらなければいけないと思っていて、忙しさにまぎれて後回しになっている人が、多いのではないでしょうか?

そのような人が一歩踏み込んで、資産形成を始めさせてくれる本です。今ほどのリストに該当する人は一読をおすすめします。

要約ポイント

書籍の中から重要ポイントを引用して、解説を加えます。

問題は「自分の現状を把握していないこと」

現在おこなっている貯蓄や積立が先々退職した後のために、適切なことなのかどうか、状況を把握することが重要です。

「老後難民女子」になりたくないなら、生活設計は「95歳」まで

問題は、夫の死亡後の生活設計がおざなりにされるケースがある

女性は男性よりも平均寿命が6歳ほど長く、2020年現在87歳です。簡単にいうと余裕をみて95歳まで生きることを想定して資産形成を試算しています。

女性をターゲットにしたのは、平均寿命が男性より長いのに、女性は家計の資産形成に関わることが少ない。

そのためかどうかは定かではありませんが、夫の死亡後の妻の生活設計を考慮されていないことが多いため、そのような女性には特に家計の資産形成に関わってほしいといった著者の願いではないでしょうか。

長生きするほどお金もかかる、長生きがリスクの時代

1970年の女性の平均寿命は75歳です。12歳も増加しています。
長寿になることは喜ばしいことではありますが、一方で長生きする分の生活費も考慮して資産形成を図っていかなければなりません。

退職後は生活のダウンサイジングが必要

地方移住」ではなく「地方都市移住」です。

退職後は子どもが独立している時期でもあり、生活スタイルが変わっていきます。
それにより無駄が生じている場合は、ダウンサイジングつまり生活の量・質を切り詰めることを提案しています。

そのダウンサイジングの一つが、「地方都市移住」です。具体的には人口30万人から70万人ぐらいの地方の県庁所在地を提案しています。

著者は「地方移住」ではなく「地方都市移住」と強調しています。
ハッキリした理由は書かれていませんが、首都圏や関西圏などから農村部への「地方移住」は生活スタイルが大きく変わるため、リスクが大きすぎると考えたと思われます。

「つみたてNISA」は、積立投資を前提にした少額投資非課税制度です。

税制優遇メリットがいっぱい!の「iDeCo」

一般の投資の場合、収益のおおよそ20%の所得税が課税されますが、「つみたてNISA」を利用した場合、20年間は所得税が課税されません。
年間投資額は一人あたり40万円が上限で非課税期間20年で800万円投資できます。

たとえば40歳で始めると60歳までの20年間で実施すると、60歳で定年になったとしても年金無給期間をカバーできます。

「つみたてNISA」の対象になる投資は投資信託とETF(上場されている投資信託)です。
リスクはありますが株式ほどはないと、言われています。商品は金融庁の承認が必要ですので、そういう面でも安心できます。

「iDeCo」は年金の制度を活用した所得税の優遇制度です。所得税の確定申告をしている人であれば分かると思いますが、「iDeCo」の掛金額が全額所得控除の対象になります。

家庭でもっとお金のことを教えるべきではないでしょうか

今後ますま高齢者人口が増加します。
今以上に年金給付が厳しくなってくることが予想されますし、金利の上昇もあまり見込めません。
そんな状況のなか子ども、孫世代はより一層の自助努力が必要になってきます。

著者は子どもに現在の家計の状況を教えることや、子どもに投資についてどうすべきか考えさせるべきと主張しています。

「収入-消費=資産形成」ではお金は増えない

資産形成の王道は「収入-資産形成=消費」

単純な式ではありますが、著者の想いが含まれています。
著者はまず、給料天引きで資産形成をして、残ったお金で生活してくださいといっています。

給料天引きを10年以上続けている人であれば、わかりませんか?気持ちの問題かもしれませんが、慣れてくるとやっていけるものです。
また、残った消費額を全額使っても、心配しなくてもいいところがメリットです。

「老後資金2000万円問題」には3つの誤解がある

誤解❶どの家庭でも一律に2000万円不足するわけではない

誤解❷「老後資金2000万円」は「赤字」という意味ではない

誤解❸退職時点までに2000万円を用意する必要はない

誤解❶は統計値を使った平均的な金額であることの意味です。

誤解❷は退職後の収入は年金しかない場合2,000万円赤字になるとしています。
しかし実際の収入源は年金収入の他に、勤労収入と資産収入があります。

誤解❸は定年退職をしても再雇用や再就職で得る勤労収入があります。
その他既存の預貯金などの取り崩しや、既存資産を運用して生じる資産収入もあります。
勤労収入と資産収入で平均的に2,000万円をまかなう必要があるという意味です。

90歳からさかのぼって75歳までの25年間は、「使うだけの時代」とします。
75歳から90歳までの20年間は、資産残高から毎年20分の1ずつ「定額の引き出し」をします。

60歳から75歳までの15年間を「使いながら運用する時代」としています。
運用収益率を「年率平均3%」、引き出す金額を「毎年の残高の4%」に設定する

定年退職する60歳の時点で退職後に引き出す総額の「7割」の金額を用意すること

退職時点で必要である4,270万円の7割3,000万円を用意するという意味です。本書でいう3,000万円について表にしておきます。

表1
項  目計 算 式結 果 備 考
平均年収686万円
目標代替率60%
退職後の生活費③=①×②410万円年額
老後期間35年60〜95歳
生活費総額⑤=③×④14,350万円
年金収入24万円2人分
年金受取期間30年65〜95歳
年金総額⑧=⑥×⑦×12ヶ月8,640万円
勤労収入⑨=24万円×12×5年1,440万円60〜65歳
差額(資産収入)⑩=⑤-⑧- ⑨4,270万円
現役時代の資産収入⑩×70%3,000万円

上記3つの引用を基にして、表にしておきます。

表2
(単位:万円)
年齢資産
残高
運用
収益
引出
し額
年金
収入
勤労
収入
合計
603,000901200288408
612,970891190288407
622,940881180288406
632,910871160288404
642,881861150288403
652,852861142880402
662,824851132880401
672,796841122880400
682,768831112880399
692,740821102880398
702,712811082880396
712,685811072880395
722,659801062880394
732,633791052880393
742,607781042880392
752,581771032880391
762,55501282880416
772,42701282880416
782,29901282880416
792,17101282880416
802,04301282880416
811,91501282880416
821,78701282880416
831,65901282880416
841,53101282880416
851,40301282880416
861,27501282880416
871,14701282880416
881,01901282880416
8989101282880416
9076301282880416
9163501282880416
9250701282880416
9337901282880416
9425101282880416
9512301282880416
合計1,3364,3418,9281,44014,709

60歳で資産残高が3,000万円
運用収益が3,000万円×3%=90万円/年
引出し額が3,000万円×4%=120万円/年
年金は65歳からの支給のため0円/年
勤労収入は65歳からの年金額相当額を得ることして、夫婦2人で24万円/月×12ヶ月=288万円/年

76歳から投資はやめるため運用収益なし
76歳から95歳の20年間で76最時点の資産残高2,555万円を均等引き出し
2,555万円÷20年=128万円/年

資産運用では「投資信託」を活用します。

これは大賛成です。投資のプロでない人が株の銘柄を決めるのは不可能です。決めたところでリスクが大きすぎます。

投資信託の商品を買えば自動的に分散投資になります。積立にすれば、時期も分散できます。
表2の運用収益は次年に定率3%を積立投資します。
投資信託で積立をすれば分散投資と長期投資でリスクが軽減できます。

書籍情報

概要

書 名 『「老後の資産形成をゼッタイ始める!」と思える本』 』
著 者 野尻哲史(のじりさとし)
発行所 株式会社 
扶桑社
発行日 2020年3月22日

著者の紹介

合同会社フィンウェル研究所代表。
1959年生まれ。
1982年に大学を卒業、国内外の証券会社調査部勤務
2006年からフィデリティ投信株式会社に勤務
2007年よりフィデリティ退職・投資教育研究所所長
20年以上にわたり資産形成・資産活用の啓発活動を続ける
2019年5月、定年後の雇用延長契約で同所長を続ける傍ら、合同会社フィンウェル研究所を設立し、資産形成を終えた世代向けに、資産の取り崩し、地方都市移住、勤労などに特化した啓発活動をスタート
行動経済学会、日本FP学会などの会員、日本アナリスト協会検定会員
2018年9月からは金融審議会市場ワーキング・グループ委員
著書に『老後難民 50代夫婦の生き残り術』
『定年後のお金』(いずれも講談社+α新書)
『定年に備えるお金の教科書』(学研パブリッシング)
『脱老後難民 「英国流」資産形成アイデアに学ぶ』(日本経済新聞出版社)など多数

目次

はじめに
CHARPTER1 「老後難民女子度チェックシート」で自己分析
CHARPTER2 「老後難民女子」にならないための対策
CHARPTER3 今すぐ始める!資産形成
CHARPTER4 退職後の生活に一体いくら必要なのか?
CHARPTER5 資産運用は怖くない!
おわりに

感想

老後の生活にどれだけのお金がいるかを真剣に考えさせ、試算方法も示されたわかりやすい本でした。

だだ1つだけ、誤解❸で「退職時点までに2000万円を用意する必要はない」といっておきながら、「定年退職する60歳の時点で退職後に引き出す総額の「7割」の金額を用意すること」つまり3,000万円を用意しろといっています。
私の理解不足が原因かもしれませんが矛盾していると思いました。

それと、世代ごとの資産形成のやり方について示していただければ、なお良かったです。
次回に期待したいと思います。

最後に著者の野尻哲史 様、「老後についていろいろ感じさせてただける」一冊ありがとうございます。

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