「田舎の農地を相続で取得したが、中山間地にあり農地としての条件がよくなく処分できないで困っています。」といった悩みをたくさん聞きます。
以前の記事「いらない田んぼをどうにかしたい人必見! 処分方法4選」で、農地を賃借しているのであれば、できるだけ継続していき、その間に所有権移転できる相手を探しましょう。と話しました。
それ以後に状況の変化がありました。
条件によっては所有権を放棄できるかもしれません。
国が用途のない土地を一定の条件のもと受け入れる制度を創設することが発表されました。
と言うのは法務大臣の諮問機関である「所有者不明土地問題の解消策を議論していた法制審議会」の部会で民法や不動産登記法の改正要綱案が発表されたからです。
問題発生の背景と問題点
「所有者不明土地問題研究会」の調査によると、2016年時点の所有者不明土地面積は、約410万haで九州より大きな面積です。2040年の所有者不明土地面積は、約720万haで北海道の面積近くになると推計されています。
改正要綱案の内容
民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案
まずは新聞記事よりも上記の一次情報を見て下さい。ポイントは下記の2点です。
- 相続登記などの任意から義務への変更
- 土地所有権の国へ帰属する制度の創設(所有権放棄)
「所有権放棄を認めますので、相続登記は必ずして下さい」ということです。
所有権放棄ができるのは相続の場合だけなのか。一般の売買などの場合はどうなるのかはハッキリしていません。
土地の登記を任意から義務へ変更
不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により当該不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始 があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。
土地所有権の国へ帰属する制度の創設
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度を創設するものとする。
土地の所有者(相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。以下同じ。)により その土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。)は、法務大臣に対し、 その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができる。
法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
1 建物の存する土地
2 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
3 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
4 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
5 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
6 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限 る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
7 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
8 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
9 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
10 1から9までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
社会情勢に対応した改正なのか?
今回の改正は公共工事や災害復旧事業で生じている不都合を改善するために改正されたような気がします。
所有権放棄制度については、これから詳細が詰められると思います。
国の財政負担の増大、事前に所有権放棄を見込んで土地の管理が乱雑になることなどが心配になります。
また社会のトレンドとして所有から利用に変わることは必然ですので所有権放棄はますます増加するでしょう。
今後何回も改正が必要になってくるのではないでしょうか?
所有権放棄制度の創設は所有者不明土地問題の解消には大きな前進です。
併せて空き家問題や耕作放棄地問題の解消にもつながっていくと考えられます。
2021年2月10日に法務大臣に答申されました。今後、国会に法案が提出されることになります。