【書評】『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 』消えた年金からコロナ対策まで

デジタル庁書評

菅内閣が掲げる「デジタル庁」
なぜ「デジタル庁」なのかと思いませんでしたか?
この本を読むと政府には相当な危機感があるかがわかります。

私は昨年37年間働いていた市役所を退職しました。行政の末席にいた身として、この本に書かれている指摘が痛いほどわかります。

最初に表題の答えをいいます。
失敗続ける理由は「人材不足」と「コミュニケーション不足」です。

国も地方自治体も一定規模以上のシステムになると民間のコンピュータ会社(ベンダー)にシステム開発業務を委託します。

土木工事の発注なら、工事仕様や積算基準が整然と整備されています。
しかしシステム開発は日進月歩です。土木工事のようなわけにはいかないのです。

土木工事は行政も建設業者も相当なノウハウを持ち合わせていますが、行政が丸投げしても問題は起こりにくいのです。(それはそれで問題はあるのですが……)

同じようにシステム開発を丸投げするとどうなるか。
システムを知らない行政、業務を知らないベンダーが作るシステムが失敗作になるのです。

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本の基本情報

書 名 『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 』
著 者 日経コンピュータ
発行所 日経BP
発行日 2021年2月2日
(電子書籍版)

本の目次

第1章 2020年、日本は「敗戦」を喫した
第2章 電子政府を巡る20年の大混乱
第3章 政府CIO設置、立て直し始まる
第4章 セキュリティーに翻弄された年金システム
第5章 マイナンバーカードの一進一退
第6章 自治体システム、標準化への困難
第7章 デジタル庁発足へ、変わる省庁と自治体
第8章 デジタル庁設立への提言

本の要旨

本書の目的は、デジタル政府の施策が20年にわたり失敗を続けてきた要因を解き明かし、未来への教訓を引き出すことにある。

これが本書の目的です。具体的には20年間で下記の事例で、失敗の原因が示されています。

失敗したシステム
  • 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)
  • 新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G‐MIS)
  • 雇用調整助成金(雇調金)オンライン申請システム
  • 持続化給付金オンライン申請システム
  • 特別定額給付金オンライン申請システム
  • 特許庁の基幹系システム
  • 年金システム
  • マイナポータルとマイナンバーカード

「特許庁の基幹系システム」と「年金システム」以外はコロナ関連のシステムです。
では、これらのシステムで失敗の原因が、これでもかというほど示されています。

失敗の原因
  • IT人材の不足
    • ベンダー丸投げ
    • 発注者しかできない作業を受託者に依存しようとしている
    • コストだけでITベンダーを選別
    • 省庁を横断的にとらえて効率的に実行できる、CIO(最高情報責任者)相当の責任者が政府には不在
    • 官僚の人事異動
    • 現場の職員を育成しようにも「2年のローテーションで異動する以上、到底不可能
  • コミュニケーション不足
    • 国民起点でデジタル化を考えていない
    • 省庁ごとや部局ごとの「縦割りの壁」
    • 国と地方の情報連携の不十分さ
    • 現場を知らない中央政府がシステムを決めて全国展開
    • システムが利用現場のニーズに合わない

主なものをピックアップしました。まとめてみるとIT人材の不足」と「コミュニケーション不足がすべての失敗の原因です。

本書でもシステムの成功の鍵は「人材」にありといっています。

そのための対策として多様な人材の確保が重要です。
具体的にはデジタル庁に民間や地方自治体から職員を起用する。

IT専門家だけでシステムを構築しても多くの失敗をしてきました。システムの専門家以上に業務の専門家や担当者が絶対に必要です。システムと業務の専門家が議論を交えることによって、国民起点のシステムが完成するのです。
それによって政府のいう「自治体の業務システムの標準化」も成功するのではないでしょうか。

「特別定額給付金オンライン申請システム」私見

特別定額給付金は新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の1つとして全国民を対象に一人当たり10万円を支給する事業です。
10万円を受給するためには、オンラインか郵送で申請する必要があります。

短期間でシステムを作る必要があったため、「二重交付」「誤入力」が多発して問題になりました。
申請情報と自治体の住民情報と連携がしていないことが原因であると言われています。

そのため自治体では申請情報を1件づつ人力で確認する必要に迫られ、大幅に時間を要したのです。

もう少し具体的に見ていくと、国はインターネット上に「マイナンバーポータルサイト」でオンライン申請システムを開発しました。

オンライン申請システムで住所・氏名などがすべて手入力で面倒くさいと評判が悪いうえ、入力誤りも多発しました。
マイナンバーカードのデータを読み込んでいるので、基本4情報(氏名・住所・性別・生年月日)だけでも自動入力はできるはずです。

しかし、国が住民の個人情報を直接把握する仕組みは最高裁判例で認められていないので、自動入力することができませんでした。

ではなぜマイナンバーカードのデータを読み込む必要があるのか?
個人認証するためにマイナンバーカードが必要だったのです。

また、「申請データ」の項目にはマイナンバーは入っていません。
マイナンバーがキーコードになって「申請データ」と「住民情報」が関連付けられるのです。

「申請データ」と「住民情報」が関連付けられないと確認は全て人力になります。それでは地方自治体は可愛そうです。

図にすると下のようになります。
「申請データ」にマイナンバーを入れないと使いものになりません。
この判例は今後、不味いことにならなければいいのですが。

申請データ」
マイナンバーカードID  
氏名
住所
性別
生年月日
家族氏名
家族生年月日
続柄
住民情報」         
個人コード
世帯コード
氏名
住所
性別
生年月日
続柄
続柄コード
マイナンバー

なお、郵送申請の場合「住民情報」から基本4情報(氏名・住所・性別・生年月日)が記入済にした自治体が多かったことからミスは少なかったと言われています。

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