電子決済サービスは現金を扱わなくても、支払いができる便利なサービスです。
電子決済サービスが扱う金額は少ないことが多いため、相続手続きの最中では忘れられがちな手続です。
電子決済サービスにはプリペード(先払い)型、デビット(即時払い)型、ポストペイ(後払い)型に分類されます。
デビット(即時払い)型、ポストペイ(後払い)型は残高がありませんので、今回は対象外です。
問題は残高が生じるポストペイ(後払い)型です。
電子決済サービスは現金機能あることから、相続時に残額がある場合は当然相続対象となると考えるのが普通です。
実情は各運営会社によって取り扱いが異なるようです。
ポストペイ(後払い)型の主要なサービスを調べてみました。
結論をいうと現状、相続に関しては返金できないから返金できるに徐々に変わってきています。
最終的には電子決済サービスのポストペイ(後払い)型の残高は相続に関しては返金できるようになるのではないでしょうか。
なお、相続人のアカウントは相続できないのが一般的です。
返金できない理由(その1)
チャージ残高が一身専属による権利であるとする考え方です。
一身専属である残高は相続といえども、本人以外に移転できないので、残高は返済しないという理屈です。
一身専属とはその人(相続の場合であれば被相続人)のみに従属している権利または義務で、その性質上、他者に移転・継承できないとしている。
民法第896条で規定されています。
民法(相続の一般的効力)第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
一身専属でアカウントが相続できないのはわかりますが、残高を返金しないのは無理があるのではないでしょうか?
返金できない理由(その2)
資金決済法に払戻し禁止の規定があるためです。
資金決済法
資金決済法
(保有者に対する前払式支払手段の払戻し)
第二十条 前払式支払手段発行者は、次の各号のいずれかに該当するときは、前払式支払手段の保有者に、当該前払式支払手段の残高として内閣府令で定める額を払い戻さなければならない。
一 前払式支払手段の発行の業務の全部又は一部を廃止した場合(相続又は事業譲渡、合併若しくは会社分割その他の事由により当該業務の承継が行われた場合を除く。)
二 当該前払式支払手段発行者が第三者型発行者である場合において、第二十七条第一項又は第二項の規定により第七条の登録を取り消されたとき。
三 その他内閣府令で定める場合
5 前払式支払手段発行者は、第一項各号に掲げる場合を除き、その発行する前払式支払手段について、保有者に払戻しをしてはならない。ただし、払戻金額が少額である場合その他の前払式支払手段の発行の業務の健全な運営に支障が生ずるおそれがない場合として内閣府令で定める場合は、この限りでない。
業務廃止の場合などを除いて、プリペード(先払い)型による残金支払をすることを、原則として禁止しています。
これは出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)で銀行以外の事業者が「預り金」をおこなうことを、禁止していることが関係しています。
自由に払い戻しや返金を可能にすると銀行の預り金と同じになってしまう恐れがあるため、法律間の整合性が取れなくなるためです。
主要5サービスの状況
PayPay
2021年に利用規約が改正になり、相続時にチャージ残高が返金できるようになりました。
【PayPay残高利用規約(抜粋)】
第5条 権利義務などの譲渡の禁止および相続
PayPay残高利用規約
PayPay残高アカウントに関する契約上の地位およびこれにより生じる権利義務の全部または一部は、利用者に帰属し、利用者は、これらの権利を第三者に譲渡、貸与または相続させることはできないものとします。ただし、利用者に相続が発生し、利用者のPayPay残高アカウントにPayPayマネーまたはPayPayマネーライトの残高が残っていた場合、当社は当社所定の方法に基づき、法令に定める例外事由等を考慮の上、当該利用者の保有するそれらの残高を正当に相続または承継すると当社が確認した者に対し、振込手数料を控除した額を振り込みます。
電子決済サービス業界でハッキリと明示したのは「PayPay」が最初ではないでしょうか?
改正以前は、残高の返金は諦めるしかなかったのですが、相続の場合は所定の書類を提出することによって返金できるようになりました。
d払い
「d払い」の加入には「現金バリュー」と「プリペイドバリュー」2種類があります。
この2種類の加入法の違いによって、残高の取り扱が違ってきます。
「現金バリュー」は本人確認がある加入方法で「プリペイドバリュー」は本人確認がない加入方法です。
「現金バリュー」は残高の返金が可能で、返金額は残高から手数料550円を差し引いた額です。
「プリペイドバリュー」は残高の返金はできません。
相続についてはWebページや規約には記載がなかったため、電話で「NTTドコモ」に確認したところ、被相続人が「現金バリュー」会員であれば返却できるとのことでした。
また、特別に相続の規定は設けていなようです。
「プリペイドバリュー」会員の人は「現金バリュー」会員に変更しておくことをおすすめします。
なお、「プリペイドバリュー」「現金バリュー」を確認する方法は以下のとおりです。
【iPhoneのd払いアプリ場合】
- d払いアプリを起動
- ログインへをタップ
- dアカウントIDを入力
- 次へをタップ
- パスワードを入力
- セキュリティコードを入力
- ログインをタップ
- 右下のアカウントをタップ
- その他のd払い残高各種設定・解約
- 赤字で囲まれたところに記入されたバリュー名を確認
事前にログインしていれば、2〜7は省略されます。
楽天ペイ
楽天ペイは他社のようにペイアプリに直接チャージする方式ではありません。
楽天サービス全般で使える「楽天キャッシュ」にチャージすることによって、楽天ペイにも反映され支払いが可能になります。
楽天キャッシュには「基本型」と「プレミアム型」の2種類があり、違いは「基本型」が出金不可、「プレミアム型」が出金可能な点です。
出金するためには「プレミアム型」に申込が必要です。
申込みの際にはマイナンバーカードなどで個人認証が必要になります。
注意点として楽天カードや楽天銀行からのお金は「基本型」にしかチャージされません。
つまり出金できません。
相続については「楽天キャッシュ【基本型】利用規約」及び「楽天キャッシュ【プレミアム型】利用規約」において、下記のような規定があります。
「楽天キャッシュ【基本型】利用規約」
第6条(禁止事項等)
7. 楽天キャッシュ【基本型】に関する契約上の地位及びこれにより生じる一切の権利義務は、会員に一身専属的に帰属し、会員は、本規約に特段の定めがある場合を除き、これらの権利を第三者に譲渡、貸与又は相続させることはできません。ただし、会員に相続が発生し、当該会員に楽天キャッシュ【基本型】の残高がある場合に、当社は、当社所定の方法より、正当に相続又は承継すると当社が確認した方に対し、振込手数料を控除した額を返金します。なお、振込手数料が楽天キャッシュ【基本型】の残高を上回る場合、当社は、返金を行いません。「楽天キャッシュ【プレミアム型】利用規約」
楽天キャッシュ 利用規約
第6条(禁止事項等)
7. 楽天キャッシュ【プレミアム型】に関する契約上の地位及びこれにより生じる一切の権利義務は、会員に一身専属的に帰属し、会員は、本規約に特段の定めがある場合を除き、これらの権利を第三者に譲渡、貸与又は相続させることはできません。ただし、会員に相続が発生し、当該会員に楽天キャッシュ【プレミアム型】の残高がある場合に、当社は、当社所定の方法より、正当に相続又は承継すると当社が確認した方に対し、振込手数料を控除した額を返金します。なお、振込手数料が楽天キャッシュ【プレミアム型】の残高を上回る場合、当社は、返金を行いません。
相続場合は「基本型」「プレミアム型」とも返金が可能であることが明示されています。
LINE Pay
「LINE Pay」は単純明快です。
相続が原因であれば返金する。それ以外は利用者に一身専属的に帰属するので返金しないということです。
LINE Moneyアカウント利用規約
LINE Moneyアカウント利用規約
第3条 LINE Payアカウント
4 LINE Payアカウントに関する一切の権利は、利用者に一身専属的に帰属します。利用者は、これらの権利を第三者に譲渡、貸与または相続させることはできません。ただし、LINE Moneyアカウント保有者に相続が発生し、LINE Moneyの残高がある場合、当社所定の方法により、相続人に対し、振込手数料を引いた上で返金いたします。なお、振込手数料がLINE Moneyの残高を上回る場合には返金は行いません。
モバイルSuica
退会時の返金が可能です。
相続時にも退会時と同等の扱いをすることになっています。
モバイルデバイスにおけるSuica利用規約
モバイルデバイスにおけるSuica利用規約
第21条 利用者が本Suicaの利用を終了したい場合は、第18条に定めるSF残高の払いもどしを請求するものとし、当該手続きの完了をもって利用者登録は取り消されます。この時点において、利用者は本Suicaに関する一切の権利を放棄したものとします。
2. モバイルSuica会員が死亡した場合は、その時点で退会したものとみなし、本条第6項第1号の定めによらず、法定相続人が当社の定める手続きにより払いもどしの請求をしたとき、当社は退会の手続きを行います。
まとめ
結論をいうと現状、相続に関しては返金できないから返金できるに徐々に変わってきています。
最終的には電子決済サービスのポストペイ(後払い)型の残高は相続に関しては返金できるようになるのではないでしょうか。
なお、相続人のアカウントは相続できないのが一般的です。
【サービス別チャージ残高返金対応】
サービス名 | 解約(退会)時 | 相続時 | |
PayPay | 返金不可 | 返金可 | |
d払い | 現金バリュー | 返金可 | 返金可 |
プリペイドバリュー | 返金不可 | 返金不可 | |
楽天ペイ (楽天キャッシュ) |
基本型 | 返金不可 | 返金可 |
プレミアム型 | 返金可 | 返金可 | |
LINE Pay | 返金不可 | 返金可 | |
モバイルSuica | 返金可 | 返金可 |