「田んぼを相続したが、農業はしないのでいらない。」
「農業は儲からないのやめたい。」
「高齢で田んぼをできない。」
こんな理由で農地を手放したいと思っているが、なかなかできなくて困っている人の悩みを解決します。
最初に結論をいうと、現状では田んぼを売るのはまず無理です。賃貸で話をすすめましょう。
農地は農地法の規制があるため、簡単に売れないと一般には言われます。
農地を宅地などに転用するのは農地法等の規制があり、簡単にはできません。
しかし農地を農地として売るのは手続きとしてはそんなに難しことはありません。
難しいのは農地を買ってくれる人がいないからです。
私は、農地の許認可事務をおこなっている市役所農業委員会には10年程、在籍していました。そのような経験から農地の処分について説明します。
まずは、掘り下げて見ていきましょう。
なぜ「農地を買ってくれる人がいない」のか?
理由は2つ
- 農業者の経営状況がよくないから
- 農業が必ずしも利益だけを追求する産業ではないから
農業者の経営状況がよくないから
国の農業経営統計調査 平成30年営農類型別経営統計からみた農業経営体当たりの経営状況によると
全経営体 | 個別経営体 | 組織法人経営体 | |
平均面積 | 3.2ha | 1.8ha | 28.0ha |
農業粗収益 | 884万円 | 265万円 | 16,405万円 |
農業経営費 | 687万円 | 209万円 | 14,800万円 |
農業所得 | 198万円 | 56万円 | 1,605万円 |
日本の全農業経営体の平均値で、農業所得が198万円です。
個別経営体(家族経営のことです)の農業所得が56万円です。
個人所得ではありませんよ。
個別経営体の労働者数はでていなかったのですが、仮に2人とすると1人当たりの所得が平均28万円で、考えられない数字です。
これは農業だけに焦点をあてたからです。世帯に焦点を合わせれば、個別経営体のほとんどを占める兼業農家は給与などの農外所得があるので家計を回していけるのでしょう。
このような視点からみると、個別経営体は利益追求ではなく、農地の保全管理のために農業をやっているのです。
経営体によっては追い銭をしている個別経営体もあるのではないでしょうか。
一方組織法人経営体はまだマシですね。
農業所得1,605万円以外に農業経営費14,800万円には従業員の給与も含まれているでしょう。
明らかに個別経営体とは状況が違います。
全体で見れば経営状況はよくありませんので、農地を買う余裕など全くない状況です。
組織法人経営体あれば農地の賃借であれば、経営規模を拡大したいこともあり話にのってくれるかもしれません。
・農地の売買価格「全国農業会議所の田畑売買価格等に関する調査」
純農業地域(都計法の線引きをしていない市町村)の農用地区域の農地価格(全国平均)は、中田*2 価格が 116 万5千円(10a あたり。以下同じ。)で対前年増減率*31.3%の下落、中畑*2 価格が 86 万1千円で 1.1%下落した(表1)。中田・中畑価格ともに平成7年以降 25 年連続の下落となり、いずれも最高価格となった平成6 年(中田 200 万2千円、中畑 137 万8千円)と比べると、それぞれ 41.8%、37.5%の下落となっている。
・農地の賃借料「全国農業会議所の水田小作料の実態に関する調査(平成21年)」
この調査は小作料の標準額を公表することで、実際の小作料を決めるときの目安としていました。
地域によりいろいろなケースがあるため、標準化することが困難となり平成21年で終了しました。
全国の実納小作料を平成20年と比べてみると、10アール当たり13,952円で155円(1.1%)下落し「やや下落」となった。実納小作料は平成6年に平成5年の不作の影響を受けていちど上昇に転じたが、その後15年連続の下落となっている。全体的には、昭和60年の34,650ご縁をピークに下落しており、ピーク時の実納小作料と比べてみると、20,703円(59.7%)の下落となっている。
これだけ農地の価格が下落していても、農業者に農地を買う余裕はないのです。
農業が必ずしも利益だけを追求する産業ではないから
農業にとって利益追求は当然必要ですが、それ以上に農地の保全管理を通じて地域の環境に配慮しないとやっていけないのです。
どういうことかと言えば、農地の雑草繁殖の防止が一番の問題なのです。
これを怠ると近隣農業者から苦情が出たりします。
だから個別経営の農業者は利益のために農業をやっているのではなく、農地を保全するために農業をやっているのです。
農地を保全できなくなり、農業を委託できなくなると、その農地は耕作放棄地になってしまいます。
やはり、賃貸しかありません
どうすればいいのか?
貸しましょう。それもできるだけ長期に、10年以上がベストです。
貸付先は経営規模100ha以上、従業員10名以上、20代30代の従業員が3割以上を占めていることです。当然法人組織です。
個別経営で多くの利益をあげている人はいます。そのような人はどちらかというと園芸とか畜産経営をしでして農地を多く必要としません。
また、個人経営の場合、後継者がいなければ経営が続かなくなって、廃業せざるえません。
一時的に儲かっていて農地を借せても、後年にまた農地の処分問題が発生してしまいます。
法人経営で100ha以上の大規模な組織法人経営体土であれば、規模拡大すればするほど利益率が高まります。
そのような組織であれば農地を借りてもらえる可能性が高まります。
安心して農地を貸すには、どうすればいいのか?
売るのはあきらめるとして、安心して農地を貸すには、どうすればいいのでしょうか?
まずは市役所や農協に相談してください。農地1筆毎の情報である農地台帳・農家台帳といったデジタル化したデータベースや地図情報システムを持っています。
細かい情報がわかりますので、悩みを相談してください。
併せて農地台帳からは地域の農業状況を、農家台帳からは農業者・農業組織の情報を仕入れてください。
農協は市役所が知らない農業者の情報を知っています。農協の営農担当部局にいる地区担当営農指導員に相談してください。
最後に市役所や農協がすすめる直接農業者・農業組織に直接合ってみましょう。
道は開けます。