FP1級試験では保険金の支払いの場合の圧縮記帳が出題されます。
過去13回の試験で基礎編で4回出題、応用編で1回出題されています。
計5回中4回が圧縮限度額を問う問題です。
計算式がわかっていれば簡単に解ける問題です。
圧縮記帳とは
法人が災害等で資産が滅失・損壊し、保険金により代替資産を取得・改良した場合、保険差益に法人税を課税することは代替資産を取得・改良することが困難となる恐れがある。
そのため一定の要件を満たす場合、代替資産額を減額して課税を次期以降に繰延する制度のことです。
要件
- 法人事業主であること
個人事業主の損害保険金は非課税です。 - 災害があった日以後3年以内に支払いが確定した保険金であること
- 保険金支払いの2年以内に取得見込みのある代替資産があること
- 滅失資産、代替資産は自己所有固定資産であること
- 保険金が確定する前に代替資産を先行取得しても対象になる(2017.1)
- 建物だけではなく機械設備も対象(2017.1)
- 滅失資産と代替資産の構造・用途が異なっていても、減価償却資産の耐用年数表で同一種類であれば対象(2019.9応用)
例)工場と倉庫(2017.1) - 商品などの棚卸資産は対象外(2017.1)
- 災害前に施工が始まっている資産は対象外(2017.1)
- 代替資産は中古でも対象
圧縮限度額
(2020.9)(2019.9応用)(2019.1)(2016.1)
圧縮限度額とは代替資産額を減額する場合の上限額のことです。
$\mathbf{保険差益 \ = \ 保険金−滅失資産−災害復旧費用}$
$\mathbf{保険限度額 \ = \ 保険差益 \ ×\Large{\frac{代替資産取得額}{保険金−支出費用}}}$
【注意事項】
類焼者への賠償金・見舞金・弔慰金等の直接関連しない費用は含みません。
分子の「代替資産取得額」は分母の「保険金ー支出費用」が上限です。
式の意味がわかりますか?
「保険差益」は災害の収支です。収入が保険金で支出が災害を復旧するための直接的費用です。
賠償金・見舞金・弔慰金等の間接的な費用は含みません。
間接的な費用は人によって金額の大小が大きいからだと思います。
圧縮記帳をしなければこの「保険差益」の額が法人税の課税対象額になります。
これに一定率 $\mathbf{\Large{\frac{代替資産取得額}{保険金ー支出費用}}}$ を掛けて、法人税を繰延します。(減額ではありません。)
分母の「保険金ー支出費用」は代替資産を取得するための手持ち資金です。
たとえば、分母と分子が等しいとすると、手持ち資金を満額代替資産の取得に充てるということです。その場合「保険差益」全額が圧縮限度額になります。
だから $\mathbf{\Large{\frac{代替資産取得額}{保険金ー支出費用}}}$ は保険差益の何パーセントを減額するかを示したもので、圧縮限度率といった意味合いです。
必ず計算式を丸暗記するのではなく、計算式の意味を理解した上で暗記すれば忘れません。
演習問題
【問】
A社の工場が火災により全焼した。契約中の損害保険金を受け取り、新たに工場を建築した。下記の資料に基づき、保険金で建築した工場を圧縮記帳する場合、圧縮限度額を求めよ。なお、各損害保険の契約者(=保険料負担者)・被保険者・保険金受取人は、いずれもX社とする。また、記載のない事項については考慮しないものとする。
資料
- 全焼した工場の簿価:6,000万円
- 焼失した商品評価額:2,000万円
- 火災復旧費用
延焼賠償金:100万円
火災現場片付け費用:200万円
負傷者見舞金:150万円 - 契約損害保険の内容
契約者・被保険者・保険金受取人は、いずれもAX社 - 受取保険金
火災保険金:8,200万円
企業費用・利益総合保険の保険金:1,500万円 - 新築工場取得価額:6,000万円
【解答】
圧縮限度額1,500万円
圧縮記帳後の新築工場価額4,500万円
【解説】
保険差益
=8,200万円ー6,000万円ー200万円
=2,000万円
圧縮限度額
=2,000万円×6,000万円/(8,200万円ー200万円)
=1,500万円
商品は固定資産ではないので保険差益の計算には含めません。
延焼賠償金、負傷者見舞金は直接的な災害復旧費ではないので保険差益の計算には含めません。
企業費用・利益総合保険の保険金は休業補償のための保険であるため、固定資産の滅失ではないので、計算には含めません。
圧縮記帳後の新築工場価額
=圧縮記帳前の新築工場価額6,000万円ー圧縮限度額1,500万円
=4,500万円