【書評】『老後の資金がありません』惨めな高齢者にならないために

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3年後に夫の定年退職を控えて、夫婦Wリストラの憂き目にあった中で、子供の結婚資金や親の葬式代など臨時経費が発生。

このままでは老後のお金がなくなってしまう。資金不足をなんとかしようと悪戦苦闘する様を描いた本です。

金融に関しての知識があれば常識かもしれません。老後資金についてあまり意識してこなかった人には、現実味があり参考になる1冊です。

目次

本の基本情報

書 名 『老後の資金がありません 』
著 者 垣谷 美雨(かきや みう)
発行所 中央公論新社
発行日 2018年4月27日

著者の紹介

著者 垣谷 美雨(かきや みう)

兵庫県豊岡市出身

明治大学文学部文学科(フランス文学専攻)卒業

ソフトウェア会社勤務を経て、2005年「竜巻ガール」で第27回小説推理新人賞を受賞し、小説家デビュー

影響を受けた作家は曽野綾子

40代の女性が高校時代にタイムスリップしたり、夫の彼女と心が入れ替わったりなど、もしもの世界をリアルに表現する「if小説」といわれる作品が多い

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9E%A3%E8%B0%B7%E7%BE%8E%E9%9B%A8

本の要旨

主人公の後藤篤子、50代。
娘の結婚費用、舅の葬式代、親の仕送りと次々と出費していくなか、世間体と老後資金不足の狭間で苦悩。

敦子の夫の章(あきら)は、中堅の建設会社勤務、定年まで後3年に迫っている。
金に無頓着で見栄っ張りの旦那さんです。

そんな中、夫婦そろって会社のリストラによって失業します。
親の仕送りを節約するために姑と同居することになる。

ここから話が急展開します。お金のやり繰りに悩むリアルな現実が描写されていた話から、年金詐欺を題材とした現実離れしたサスペンスともいえる話へ変わっていきます。

サスペンスの中心は敦子ではなく、姑。
前半は気力のない女性に描かれているのに、後半になると一変、覇気のある女性に変身します。
金儲けに篤子をぐいぐい引っ張っていく。

同居で心配していた嫁姑問題もあまりなく、篤子は徐々に暗い気持ちから抜け出していきます。
老後資金不足が解決したわけではないが、明るい兆しが見えてきたところで、ジ・エンドになります。

感想

前半の地味な展開から、後半のサスペンス小説への変貌。
不自然さは否めません。でも前半のままで終わってしまうとつまらないですね!
仕方ないのかな。

おこがましいですが、構成を考え直してみてもよかったのでは。
前半に姑のキャラを少し匂わしておけば、不自然さは少し解消できたでしょう。

映画化

映画は2020年7月ロードショーの予定でしたが、コロナ禍の影響で2021年に延期になっています。

篤子役に天海祐希さん、夫の章役には「孤独のグルメ」で有名な松重豊さん、姑役に草笛光子さんの配役になっています。

草笛さんがどんな演技をされるか興味津々です。

老後資金問題

老後資金2,000万円不足が政治問題化したこともあって、気になって本書を読んだ方もおられるのではないでしょうか。

本書で取り上げられたお金に関するいくつかの問題を取り上げて解説します。

子供の結婚費用

結婚式と披露宴費用に600万円、両家折半で後藤家が300万円の負担。
結果的にその他経費も含めて500万円の負担になっています。
折半したとは書かれていませんが、新郎の実家は実業家として描かれていますので、結婚費用総額で1,000万円以上と推測されます。

現実には結婚にどれぐらいの経費が必要なのでしょうか?
日本FP協会のページでは約304万円になっています。

親への仕送り

月に9万円の仕送りをしていることになっています。
章は二人兄妹で妹夫婦も9万円の仕送りをしています。

これはきついですね。義親は年金と蓄えていた資金で賄うのが筋でしょう。
義親は商売をたたんだときに、2億円のキャッシュがあったとあります。

あまく見て、月30万の生活費がかかったとして、年で360万円、30年で1億800万円が必要です。2億円プラス年金で、余裕で生活ができます。なんに使ったのでしょうか?

親の葬儀費用

棺桶・祭壇・花輪などなど総額200万円となっています。

日本消費者協会の資料によると196万円です。
この金額については「サンプル数が少ない」「明細がわからない」など不正確であるとした意見があります。

196万円を根拠として200万円に設定したと思いますが、家族葬や直葬が徐々に浸透しているご時世、割高のような気がします。

ひとつ気になったのが戒名60万円と死亡診断書5万円、価値観の問題かもしれませんが、ボッタクリ以外のなにものでもありません。

年金詐欺

振り込め詐欺のことではなく、年金受給者が死亡したことを隠して年金を受給しつづける詐欺のことです。
篤子の姑がある行方不明の高齢者の身代わりになることによって、その報酬を得ようとするストーリーです。

一時この手の事件はマスコミを賑わせました。
老老介護や引きこもり世帯で高齢者の年金を当てにしていた世帯が、高齢者の死亡により収入源を断たれて、切羽詰まってやってしまったといった顛末でした。

作者が執筆時にマスコミで騒がれていたのかもしれません。
現実には参考になりませんが、小説としては面白い構成になっています。

最後に

最後に著者の 垣谷 美雨 様、よくあるケースで老後資金不足問題を通じて、いろいろな人間模様を語っていただき、ありがとうございます。
特に老後のことなどに無頓着な人には、非常に参考になるのではないでしょうか。
ますますの活躍をご祈念申し上げます。

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